企画のポイント

「高齢者住宅」の現状

「高齢者住宅」の代表格といえば、「サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住という)」です。
そのサ高住も総登録件数 7,107棟、総登録戸数 234,971戸(2018年9月時点)となり、既存の特養や有老のような介護施設と肩を並べる存在となりました。そんなサ高住も今は過渡期にあります。

2016年末、国土交通省から「重要なお知らせ」と題して、サ高住整備事業について告知がなされました。居室面積が25㎡未満の住戸について補助限度額を減額するーーー18㎡の「介護型」サ高住が過多に先行して整備された現状を受け、今後広めの居室に誘導したい国の狙いが見てとれます。ただし、この制度の方向性だけで自立向けサ高住の整備が進むとも考えにくく、やはり事業性を重視する土地オーナーやデベロッパーは、不動産活用の視点から土地のポテンシャルを活かし、できる限り居室数を多くとれる計画を要望するものと予想されるからです。こうしたニーズと自立向けサ高住の供給を両立させる方法はないのでしょうか。

自立向けサ高住には広めの居室や、住戸内の浴室の設置が不可欠―――こうした「常識」に対し、「自立」の意味そのものを問うことから一石を投じ、入居者満足と事業性の両立を実現させたサ高住が誕生しました。その経緯、そして事業者の思い、企画設計者の狙いなど、以下に「逆転の発想」を記します。

“自立”とは何か―その判断・捉え方

弊社の関連会社㈱IAO竹田設計の設計物件、サ高住「サンサーラ・レジデンス」(大阪府寝屋川市)は、2016年9月に竣工した関西初の『スマートウェルネス住宅等推進モデル事業』選定物件です(地上2階建て、全28戸)。

事業主体は地域の社会福祉法人で「自立向けサ高住」を標榜しており、本計画に際しこの法人からたくさんのことを学ばせて頂きました。同法人によれば、「自立」とは見た目でも要介護度でもなく、ある「基準」をクリアした人を指すといいます。その基準とは自立とは自分で意思決定ができて、自分で意思表示ができるということ」
本物件の入居対象者はこうした視点から法人が「自立」であると判断した高齢者であり、その結果、なかには要介護度1の入居者もいるし、見た目は明らかに軽度の要介護度なのですが、あえて要介護認定を受けていない人もいるのです。
次章からは、このサンサーラ・レジデンスを事例として、今後の「自立向けサ高住」開発の一助となるべく、企画・設計の際のポイントを述べます。

基本コンセプト

「患者は病院に行ける、要介護者はデイサービスに行ける、しかし自立者には行き場がない」―――こう法人幹部は思いを私に語ってくれました。「万が一このまま突然死んでも誰にも気づかれないし、気づこうともしてくれない。」自立であっても、こうした不安を抱いている独居高齢者が数多く存在します。

自立向けサ高住の目指すべき姿は、自立している高齢者の居場所、行き場になることです。そこでは、「住まい」としての機能はもちろん、職員や地域の人々との「交流の場」という重要な役割も果たします。

立地の考え方

サンサーラ・レジデンスは、既存の特別養護老人ホーム横に増築して計画しました。もし、その入居者が中重度になり自立した生活が困難になった場合も隣接する特養に入居できますが、サンサーラ・レジデンスに継続して住みたいならば在宅サービスで支援も可能です。
立地は利便性がよいとは決していえませんが、入居者はタクシーを最寄り駅まで10分程度走らせてアクティブに生活しています。また、商業施設、温浴施設も車で約10分のところにあるため、時々タクシーで訪れている入居者もいるようです。交通アクセスには恵まれなくても、高台にあるため朝日や夕陽、街を一望できる眺望は入居者にとり大きな楽しみであり、建物横にある桜並木は2階リビングからの絶景です。
さらに敷地内には仏舎利塔があり、毎朝合掌するために散歩する入居者も多いといいます。こうした神社やお寺が近くにあれば、立地として活かすべきだと考えます。高齢者にとって、心安らげる場所となるはずだからです。
すなわち、単に交通利便性だけに捉われず、こと細かに立地のもつ強みや弱みを分析したうえで計画することが自立向けの場合、大切なのです。

マーケットニーズの捉え方

企画段階から地域住民(主に入居対象となる高齢者)と高齢者住宅を考える勉強会を開催し、一緒になって具体的に住みたい住戸プランを考えるとよいでしょう。どの高齢者も自分が住む(可能性がある)話となると真剣に議論し、主催する事業者との連帯感や一体感が自ずと湧いてくるからです。
ちなみに、大阪のある地域で行われた勉強会で具体化された自立向けサ高住の住戸プランは、面積は30㎡程度でトイレ、洗面台、収納、ミニキッチンは必要とされましたが、浴室は不要という意外な結果となりました。その理由は、「浴室計画の留意点」として後述します。

設計のポイント

運営のポイント

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